寒い。そう感じた俺は微睡からゆるやかに浮上した。
どこか違和感があった。
自分の家ではない、しかしすっかり慣れたにおいは真田の家のものだ。違和感は寒いと感じた原因。
なぜか胸元が外気に晒されている。真田の家に泊まる時はいつも借りた寝衣を着ている。帯一本のそれは当然はだけやすいから、必ずナイトブラも付けているのにそれもたくし上げられているらしい。
一瞬恐怖に身が強張った。
しかし隣には真田がいるはずで。――真田?
俺は目を開かないままで気配を探った。すると少し離れた場所から押し殺したような息遣いが聞こえた。真田だ。間違いない。
それに加えて、グチュ、グチュ、という湿った、リズミカルな音。それが何の音か察してしまった俺の顔に熱が集まる。
真田がオナニーしてる。俺のおっぱいを見ながら。
真田は俺に触れることなく――ナイトブラを上げる時に多少触れたかもしれないが、ただ俺を見ながら自分を慰めていた。
「――っ、く」
やがて果てたのだろう。真田が小さく呻いて。しばらくして気配が近付いてきた。
もしかしてキスされる⁉︎ という懸念もただの杞憂で終わって。静かに胸元が整えられる。
「んっ……」
ブラが戻される時に先端が少し擦れて小さく声が漏れてしまう。真田が固まったから起きているのに気付かれたのかと思ったがそれも杞憂だったらしい。
「すまん。幸村……」
俺の胸元を整え終わると真田は俺に布団をかけ直して、隣の布団に入ってしまった。
そうしてしばらくすると普通に寝息が聞こえてきた。なので俺はそこで漸く目を開けた。
えええええ……すまん、じゃないだろ! 一人でスッキリして寝るな!
そもそもである。高校生にもなって一緒の部屋で寝ているのがおかしいことをわかってほしい。俺と真田は付き合っていない。真田からの好意はわかっているけど真田の好意は恋愛のソレとは思えない淡白さだったので仕方なく俺は外堀を埋めつつ「正式に付き合っている訳ではないが内縁の彼女」みたいなポジションを自分で確立してきたのだ。お祖父様にも「早くもう一人ひ孫の顔が見たいわい」と言われている。
一方あまりの淡白さに真田の恋愛対象は男かもしれないと現在探りを入れているところでちょうど今日も仁王を問い詰めてしこたま嫌な顔をされたところだ。
俺は俺の完全な片想いだと思っていたのに。その真田が俺で自分を慰めていた。
――正直ショックだった。
だって、知ってたらもっと可愛いブラにしたのに!