彼女はデカくて男前


 俺には幼馴染がいる。
 テニスクラブで出会った女の子は本当は泣き虫だったけどすごく強くて凛としていて誰よりかっこよかった。こんな言い方は良くないかもしれないけれど、「男らしい」っていう言葉が他の誰よりも似合う子だ。
 男の子よりも女の子に人気があって(毎年バレンタインには俺と同じくらいチョコレートをもらっている)宝塚のヒーローみたいって騒がれていた。
 さて、そんなかっこいい自慢の幼馴染が今俺の前に正座している。
「……ええと、真田。キミ、今、なんて言ったのかな?」
 俺は先程真田から放たれた言葉が信じられなくて聞き返した。
 目の前の彼女はピンと背筋を伸ばして真面目な表情をしている。うん、やはり聞き間違いに違いない。
「うむ。蓮二の協力のもと陰茎を生やすことができた。これでお前と性交ができる、と言った」
 寸分違わず同じ言葉が返ってきた。
 蓮二に協力してもらって。
 ちんちんが生えてきたから。
 俺とセックスができる。
 真田はそう言った。
「……まって真田」
「ああ、待とう。私は我慢のできる女だ」
「うん、そうだね。真田は我慢強いよね。助かるよ」
「ゆっくり心の準備を整えてくれ。初めてだからな。不安もあるだろう」
「……………………」
 幼馴染が男前で助かる。いやそうじゃない。本当に我慢強いなら俺とセックスするためにちんちんは生やさないんじゃないだろうか。ていうかちんちんってそんなつくしみたいな感覚で生えるものなの?
 非日常的な幼馴染の訴え。たちのわるい夢みたいだけど来慣れた幼馴染の部屋の藺草と緑茶の良いかおりがこれは現実であると伝えてくる。
「大丈夫だ、幸村。精一杯優しくする」
 真田が微笑む。うん、俺の幼馴染はかっこいい。かっこいい、が。
 俺はそもそも真田をそういう目で見たことがない。本当は泣き虫さんなのに誰より強くあろうとする彼女を「女の子」として見てしまうのは失礼なんじゃないかと思っていたのだ。
 かといって、他の男と付き合うことを想像しておもしろくないと感じたこともある。彼女は女の子に大人気だが男にだってモテるのだ。綺麗でかっこいいから当たり前だ。あとおっぱいもでかい。普段はサラシで潰しているからそれを知っているのは俺だけだけど。
 俺は意識的に女として見ないようにしてきた訳であるが。
「真田って俺のこと好きなの?」
 俺がそう言うと真田は力強く頷いた。
「当然だ。幸村程美しい人間を知らぬ。外見だけではない、心根までもお前は美しい。ふさわしい人間になるよう努力してきたつもりだ」
 どうやら俺たちはお互いに高め合っていたらしい。そんな風に思われてたなんて嬉しいな。……うん、そうじゃないよな。
「そもそも俺は男で、真田は女なんだから真田がちんちんを生やす必要はなかったんじゃないの?」
 俺が言うと真田はここで初めて苦い顔をした。「お前は何を言っているんだ」とでもいうように唇を歪めた。
「私に陰茎がなくてはお前を抱けぬだろうが。いや、世の中には色々便利な道具があることは当然調べている。私もそれを使うつもりではあった。だがやはり自分の肉体の一部と道具とではいろいろ違ってくるだろう。そんな時に蓮二が協力を申し出てくれたのだ!」
 蓮二、まさかの自主的な協力だったのか。俺は裏切りにあった気分になった。
「普通に俺がキミを抱く」
「莫迦なことを!」
 言葉の途中で遮られてしまった。しかもまったく正論なはずなのに難しい漢字でばかとか言われた。
「いいか、幸村」
 真田がずい、と正座のまま畳を滑って近付いて来る。肩を掴まれてちょっとどきっとしてしまった。
「お前は自分の魅力を解っておらぬのだ。幸村よ。お前は麗しく、可愛らしく、牡丹のような艶やかさだ。そんなお前を抱かずに誰を抱くというのか」
「え……ええー……?」
 可愛いから抱きたいとか、グラビアを見ている男子と同じレベルの暴論である。そんなので納得できるわけがない。だけど俺は気が付いてしまった。
 真田と至近距離で見つめ合う。
 俺はずっと「女の子」として見ないよう目を背けてきたけれど、このかっこいい幼馴染のことが好きだったのだ。きっと、ずっと前から。
 だったら、好きな子の望みくらい叶えてあげないとかっこよくないよな。
 そう思った俺は、一度だけ頷いた。

「……優しくするって言ったのに」
「う……」
 俺はさめざめと泣きながら大好きな幼馴染に恨みがましい目を向ける。
 泣かされて喘がされて、もう無理って言っても何度も何度もイかされて散々だった。そもそも彼女に生えてきたものは俺より大きかった。胸も大きいのにこんなのもはや暴力だ。視覚の。
 俺がいつまでもじとじとしていると真田が言った。
「ええい! くよくよするな! 次だ、次こそ優しくする!」
 次するつもりなんだ。いやたしかに気持ちよかったけど、俺、こんなに泣いてるのに。
 前向きなのか欲に忠実なのかわからない幼馴染が俺はなんだか可笑しくなってしまった。
「わかった。期待しているよ」
 俺がそういうと、真田はにっと男前な笑みで「任せておけ」と頷いた。

 ……結果については敢えて伏せよう。