千年に一度のバカップル

 この柳蓮二が恐ろしい事実に気付いたのは立海大附属中学校に入学してひと月が経とうかという時期だった。
 今となっては親友である幸村精市は、どうやらもう一人の親友である真田弦一郎の顔が好きすぎるあまりとんでもない美少年だと思っているらしい。
 この手記を読んでいる者の中にはもしかしたら知らない者もいるかもしれない。改めて説明させてもらおう。真田弦一郎は決して美少年ではない。彼の名誉のためにも念の為断っておくが決して不細工などでもない。少々大人び過ぎている節はあるもののしっかりとした顔立ちは間違いなく男前と称するに相応しいものである。中学生にしては鍛えられた体幹と相まってかなりの造形美であることは間違いない。だからもし精市が弦一郎のことを「美形だ」とか「美丈夫だ」とか「益荒男だ」とかいうのであればなんの反論もなかった。しかし。
「真田、あのくっきりした二重もすっと通った鼻筋も、ぽってりした唇も、本当にかわいい顔してるよなあ。きっと橋本環奈もびっくりするよ」
 たしかに橋本環奈もおっさんと呼ばれがちな男子中学生と比較されていると知れば驚くのは間違いないだろうな。
 精市は恐ろしいことに美少年を通り越して千年に一度の美少女と比較してきたのだ。これには僧正遍昭も驚きだろう。
 尚、入学したての頃の弦一郎はたしかに少年らしい可愛らしさはあったが決して女子のような可愛さではなかった。それでいえばその精市こそ、どちらかというと可愛いのだが。
「幸村のあのたおやかな美しさはまるで吉祥天のようではないか?」
 驚くことに弦一郎の方もこの調子なのである。精市の容姿は確かに整っている。顔だけならば否定しきれないかもしれない。しかし、退院直後ならともかく現在の体格はしっかり鍛えられた中学生男子のものである。それに一度でも対戦したことがある者は口を揃えて言うだろう。どちらかというとその母か、あるいは夫の方であると。
 つまり似たもの同士のお似合い者なのだ。
 俺からの望みは唯一つ。

 もう俺を挟まずさっさとくっついてくれ。