可愛らしいハートの形に形成されたフロマージュ・ブラン。グラサージュされた苺がつやつやして白と赤のコントラストが目にも美味しい。フォークを立てると柔らかく沈む。口に運べばしゅわりと溶けて、爽やかな甘さが広がった。
「すまない、丸井。付き合わせて」
「いや、俺も来たかったし。でも真田を誘えばいいのに。アイツ別に甘いの嫌いじゃねえだろい」
「うーん、それはそうなんだけど」
ついでに言えば可愛いものも好きである。幸村の幼馴染は可愛い外観のケーキ屋に臆するような軟弱者ではない。しかし、休日のカフェなんていかにも「それっぽい」ではないか。難色を示される可能性は十分にある。
何せ比較的最近まで同性だと思われていたのだ。
高いままの声に、すっかり抜かされた身長と丸みを帯びた身体。おそるおそる「幸村、お前……もしかして、お、女の子、なのか?」と問われた日のことは忘れられない。おなごとか女子とかではなく女の子、という言葉を選んだのが意外だったのもある。
その日から真田は急に幸村と距離を取るようになった。登下校を共にしたり、お互いの家で寝泊まりするのは変わらないのに、スキンシップを避けるし男女で出かけるとデートっぽくなりそうな場所に二人だけで行くのを嫌がるようになった。
「まあ俺も来たかったし。いつでも誘ってくれよな」
丸井の有難い申し出に頷いた。
物心がついた頃には真田のことが好きだった。
男の子だと思われていることには気付いていたが、だからこそ親友の立場を得られたのだと思っている。
幸いなことにそれなりに胸もある訳だし、手さえ出させればこちらの勝ちだとばかりに「一緒にお風呂に入ろう」だとか「一緒の布団で寝たい」とか誘ってみるものの、「馬鹿なことを言うな」と一蹴されてしまう。顔を赤くしているので全く相手にされていないわけではない。と、思いたい。
「真田に彼女ができちゃったらどうしよう……」
真田が委員会で遅れているのをいいことに幸村は柳に相談という名の愚痴を溢す。
柳は珍しく熟考するような素振りを見せた。
「幸村精市ともあろう者が弦一郎が他人のものになるのをみすみす許すのか? お前から告白すればいい」
柳は穏やかに微笑んでそう言った。柳がそう言うということはきっと勝算があるということだ。だけど確率は絶対ではない。真田の一番近くにいられなくなるのは怖い。
「心配ない。成功を百パーセントにする言葉がある」
夕波が囁いている。沈みゆく太陽に幸村も、真田も苺に負けないくらいに真っ赤に染められている。柳に指定された通りのシチュエーションだ。
幸村は震えそうになる声も、指先も、押さえつけるように言った。
「付き合ってくれないか」