「なあ、いくらなんでももういいと思わないか?」
普段より幾らか粗野な物言いをする幸村の言葉を真田は黙って聞いている。
「真田は中学に上がる前にはもう生えてたじゃないか。俺だってもう中三だというのに」
ぎっと射抜くような視線を下半身に向けられて居た堪れない気持ちになってしまう。はあ、と幸村の大きなため息が二人きりの室内に響く。
「……どうして生えてこないんだろう」
悲痛な声に真田の胸が少しばかり痛んだ。どうして少しなのかというとその悩みの原因が幸村の毛にあるからだ。ふわふわと波打つ髪の毛の話ではない。シモの毛の話である。
久しく共に風呂に入っていない今、伝聞の形でしか知らないが。幸村にはまだ生えていないらしい。
真田は気付かれぬように静かに首を横に振る。想像してはいけない。別に俗にパイパンと呼ばれるそれが性癖だということもないが、密かに想いを寄せる相手の下半身に興味を持つなという方が難しい。しかし幸村は好きな人であると同時に親友なのである。親友に陰毛があってもなくても友情に変わりはないのだから気にしてはいけないのだ。
真田が自分に必死に言い聞かせているというのに幸村ときたら何も知らずにスラックスの前を引っ張って下腹を覗いている。一緒に覗きそうになるから本当にやめてほしい。
「そうだ」
幸村がいいことを思いついたと高い声を上げる。
真田は断言できる。絶対にいいことではない。
「真田のボーボーのところに俺のをくっつけて、上から見れば俺に生えてるように見えるんじゃない?」
は? と声が出た。
くっつけるって、腰と腰を? 毛を出すということは裸で? つまり性器同士がくっつくということでは?
「ま、ま、ま」
「ほらほら早く出して」
「よせ、よさんか! やめろ幸村!」
「こら、大きい声出したら真田のお母さん来ちゃうだろ」
咄嗟に黙ってしまった真田であったがどう考えてもおかしいのは幸村である。
結論から言えば、真田が幸村の要望を却下できることはなかった。真田は局部を晒すだけでなく、素直な弦一郎くんによってその心まで晒されてしまったのだが。疎遠になるどころか、より親密に寄り添っているのだからつまりはそういうことなのである。