ある二人のモジュレーション

n番煎じなパロディ
年齢操作(年下×年上)
[重要]真田兄設定改悪あり
可哀想かもしれない
なんでも許せる人向け
ハピエン

 

 

 真田家の離れには一人、客人がいた。
 兄に嫁入りする予定の男だった。名を幸村という。
 真田家の曽祖父と幸村家の曾祖母はかつて恋仲であったが時世により引き裂かれた、らしい。武家と公家との確執といった類の話だそうだが興味がなくて覚えていない。その別れの時に子が生まれたら自分たちの代わりにその子達を結婚させようというなんとまあ自分勝手な約束をしていたとのことであったが、時世に許されるようになった父世代は年齢的に釣り合わなかったこともあり、兄と幸村の代でようやく約束が叶うと結ばれた縁談であった。
 十歳年上の兄と同い年の幸村は美しい男だった。そして優しかった。離れの縁側によく一人で座っていて、俺は度々会いに行った。離れにある小さな庭で咲いている花をよく愛でて世話をしているらしかった。幸村は花の名前をひとつひとつ教えてくれた。花は美しいと思うがどうしても名前を覚えることができなかった。もっと美しいと思うものが近くにあったからだと思っている。幸村は一向に花の名前を覚えない俺にも呆れることなく優しく接してくれた。
「ゲンイチローくん」
 幸村は甘く響く美しい声で俺をそう呼んだ。呼ばれるたびに飛び上がるほど嬉しくなった。
 初恋だった。
 兄の許嫁というのを正しく理解しているわけではなかったが、幸村が兄のものなのだと思うともやもやした。同時に幸村が兄と結婚すればずっと一緒にいられるのだという喜びもあった。
 だが、兄は幸村にほとんど会いにこなかった。必要最低限の手続きや話し合いを行なっているだけのようだった。それでも幸村は幸せそうだった。さびしくないかと尋ねたことがある。他意があっての言葉ではない。幸村はいつも一人だったからだ。今思えば兄が来ないことを揶揄していると思われても仕方がない言葉だった。
「ううん。お兄さんとの結婚が楽しみだからね。それにこうしてゲンイチローくんも会いに来てくれるし」
 幸村はそう答えた。俺はその返答に落ち込んだし、同時に舞い上がった。兄よりも俺を好きになって、俺と結婚してくれればいいのになどという馬鹿なことを考えていた。子供心に言ってはならぬことはわかっていた。そもそも俺はこのときまだまだ子供で、男として好きになってもらうには時間が足りなかった。
「おばあさまは俺を本当に可愛がってくれているんだ。俺はおばあさまの願いを叶えてあげたい。それに、ゲンイチローくんみたいにかわいい弟ができるのもすごく楽しみだよ」
 あと数ヶ月で二人は結婚する筈だった。
 突然、兄は幸村ではない誰かと駆け落ちした。ずっと付き合っていた恋人がいたらしい。幸村はそれを知っていて、関係を続けることを認めた上でそれでも結婚を望んでいたようだが、兄の恋人は許せなかったようだ。
 兄がいなくなったことで当然婚約も解消された。
 両親は幸村に謝罪し、幸村は真田の家を出ることになった。
 あの美しい顔を曇らせて荷物をまとめている幸村を見て、俺はもう幸村と一緒にいる権利を失ったことを理解した。俺はたまらなくなって幸村と両親に訴えた。
「おれも真田の男だ。幸村、兄ではなくおれとけっこんしてくれ!」
 幸村と両親は俺抜きで話し合い、結果として俺は幸村の許嫁となったのだった。
 この時点で俺は八歳で、幸村と結婚できるのは十年後になってしまう。
 幸村は流石に待つ時間が長すぎるからと結局家を出た。しかし許嫁として月に一度は会う時間を設けている。月に一度真田の家に会いに来てくれる幸村を俺は自室でもてなした。
 子供相手だというのに幸村は必ず正装して来てくれた。スーツ姿もよかったが幸村のすっと伸びた背筋は着物姿が特に似合っていた。
 自分の許嫁だというのに小学生の頃は道端に咲いているタンポポくらいしか用意できなかった。
 ある時花よりもふーっとできる方が楽しかろうと綿毛を贈ろうとしたのだが、渡す前に殆どが飛んでしまった。ほとんど綿毛のないタンポポを悲しい気持ちで差し出した俺に、幸村は優しく微笑んだ。
「ありがとう、弦一郎。キミの気持ちが嬉しいよ」
 ふーっと残っていた綿毛を吹き飛ばした。耳に横髪をかけて、タンポポに息を吹きかけるその仕草に子供心になにやらどきどきさせられてそれ以降綿毛は贈っていない。この後から庭の隅に西洋タンポポが咲くようになって、幸村が飛ばしたものだと思って見るたびにドキドキした。綿毛になっても吹くことなどできなかった。
 俺は許嫁になってすぐ、ゲンイチローくんではなく弦一郎と呼んでほしいと頼んだのだった。その方が許嫁らしいからだ。俺もお義兄さんではなく幸村と呼び始めたのは許嫁になってからだ。兄が呼んでいたように幸村と呼ぶことで幸村を自分のものにできた気がしていた。
 この頃は幸村にくっつくのは平気だった。月に一度しかない逢瀬が惜しくてたくさん甘えた。……幸村にしては子守りをさせられていい迷惑だったかもしれない。
 しかし、中学生になった頃の俺は幸村の顔も見れなくなってしまった。五つ歳を重ねた幸村は中学生の俺には毒のような色香を持っていた。あの甘い声で「弦一郎」と呼ばれるとたまらない。会った日の夜はいけないと思いながらも自分を慰めることもしばしばだった。
 この頃になると道場の手伝いのアルバイトをして小遣い程度ではあるが稼げるようになった。一輪程度であれば花屋の花も贈れるようになった。気恥ずかしくて触れるどころか目を合わすこともままならぬこの頃、気持ちを伝えられる手段は贈り物くらいしか思いつかなかった。
「気を遣わなくてもいいんだよ」 
「俺が贈りたいのだ」
 目をそらしたままそう答えると、幸村は少しだけ困ったような顔をしたあと、頬を染めてありがとうと言ってくれるのだ。勿論ちらちらと盗み見るしかできなかったが、兄ではなく自分がこの顔をさせたというだけで世界中に自慢したくなるような心地であった。
「弦一郎」
 この頃、たった一度だけ、俺の背に幸村がくっついてきたことがある。ぴったりと背に顔を寄せられて、心臓が爆発しそうだった。幸村のシャンプーのかおりがした。それに気付いてますますうるさくなる心臓の音が聞こえて笑われたらどうしようかと思った。幸村は笑わなかった。
「大きくなったね」
 その代わりにそう言った。子供扱いされているようであったが、大きくなるということは幸村を娶れる日が近付いたということだ。もっともっと大きくなりたい。はやく結婚したい。
 そんなことをもちろん言えるはずもなく、俺はただ膝の上で拳を握りしめていた。
 幸村に相応しい男になるために、俺は日々精進していた。勉学も運動も一切手は抜かなかったこともあってか何度か女から告白されたが許嫁がいることをしっかり伝えて断った。
 高校生になってすぐの頃、一人しつこい女がいて腕に絡まれているのを偶然幸村に見られてしまい、あのときは肝が冷えた。
 次に会ったとき、俺は土下座で謝罪し誤解であることを訴えた。
「大丈夫、気にしてないよ」
 気にされてないのも困るのだった。やきもちの一つでもやいてもらえたならば俺は有頂天になるだろう。
「いや、俺はお前の夫となるのだ。女とはいえ強く退けることができなかった俺に非がある! 俺を殴れ!」
 そう言うと幸村は目を丸くした。
「キミって責任感が強いんだね」
 そして笑った。幸村の笑顔は子供の頃からずっと大好きなものだ。幸村は俺を殴らなかった。この時、久しぶりに幸村の顔をしっかり見たことに気が付いた。美しいと思っていた幸村の顔はやはり美しいものの思っていたより可愛らしかった。俺はますます幸村に惚れてしまった。
「幸村」
 咽喉がカラカラだった。呼んだ声は掠れてしまっていた。
「弦一郎」
 幸村が俺の名を呼んだ。目を閉じた。いいよ、と唇が動いた。この日、愛する人の唇を得た。
 口を吸ったのはこの日の一回だけである。これ以上は止まれなくなるかもしれないからと断った。
「別にいいんだよ。それ以上のことしたって」
 揶揄うように幸村が言った。
「こ、婚前交渉などけしからん! 俺は幸村を大事にするのだ!」
「そう。少し残念だけれどキミがそう言うなら仕方ないね」
 幸村は本当に残念に思っていたのだろうか。それはどういう感情なのだろう。

 俺は十八になった。法律的にはもう結婚できる年齢だ。
 ただ、幸村と両親とが話し合った結果、学校を卒業するまでは先延ばしすることになった。こういった話し合いに俺は相変わらず参加させてもらえない。俺は少しでも早く結婚したいというのに。
 俺の誕生日を過ぎた頃から、幸村は真田の家に来なくなった。
 幸村の「おばあさま」厳密に言えば曾祖母、存命であった例の約束の当事者が入院したらしい。会えないまま一ヶ月、二ヶ月と時が過ぎてゆく。夏が過ぎ、卒業まであと半年となった頃に。
 幸村から両親へ婚約破棄の申し入れがあった。 両親から知らされて頭が真っ白になった。
「弦一郎、もう諦めなさい。子供の遊びはおしまいなの」
「そもそも幸村くんとは年齢が離れすぎているだろう」
 両親はもともと俺が幸村と結婚したいと言っているのを子供の戯言だと思っていたらしい。俺があまりにも頑固で自分が許嫁になると聞かないから幸村に「弦一郎が飽きるまで」と婚約の相談を持ちかけた。おばあさまのために婚約を継続したかった幸村もその話を受けた。しかしこのままでは本当に結婚、という年齢になっても俺は幸村への気持ちを保ち続けていた。どうしたものかと思っていたところで、幸村のおばあさまの容体が変わった。おばあさまが亡くなったことで花嫁姿を見せたい相手がいなくなり、幸村は無理に俺と結婚する必要がなくなったのだ。
 こうして俺の初恋は終わった。

 

 

 


 否。そう簡単に認めてたまるか!!!!!


「幸村と話す! 話はそれからだ!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい弦一郎! 幸村くんの迷惑も考えなさい!」
「迷惑なものか!幸村は……っ!」
 幸村は俺に唇を許した。俺はしなかったが、それ以上のことも。俺をなんとも思っていないのにそんなことをさせるような男のはずがない。それは願望でもあったが。ずっと幸村だけを見てきたのだ。
 止める両親を振り切って迷わず幸村の家に行った。幸村は定期的に俺の元を訪れていたが幸村の家に行くのは初めてだった。幸村が望まなかったからだが、今はそのような事情は知るものか。
 幸村の家を訪れると幸村の妹が出迎えてくれた。俺と同年代くらいの女だった。幸村の許嫁だと話すと事情を知っているのか知らないのか、幸村は実家を出て一人暮らししていると住所を教えてくれた。
 地図を見ながら向かった幸村の家は一人暮らし用のハイツだった。誰かと住むには狭そうで、少なくとも他に長く連れ添うような恋人がいて一緒に暮らしているとかではなさそうで安堵する。
 呼び鈴を鳴らすと幸村が出た。
「幸村、俺だ。会いにきた。開けてくれ!」
 少々意外だったがすんなり鍵が開いた。
 雪崩るようにドアの向こうへ踏み入れる。初めて訪れた幸村のすまいは可憐な幸村の印象からすると少々殺風景だった。
「幸村!」
 久しぶりに会う幸村は前回の逢瀬の時より少々痩せていた。兄が消えたときもこのような様子だったと思い出す。
「玄関先で大きな声を出さないでくれないか」
 固い声で幸村は言った。知らん。そう思った俺は大きく息を吸い込んだ。幸村があっという顔をした。知らん。
「俺を捨てるつもりか! 幸村ッ!」
 思いついた言葉は少々情けないものだったが、それも知らんと言ったら知らんのだ。幸村は困った顔をした。
「人ぎきの悪いことを大声で言わないでくれ。ここ壁薄いんだから」
「本当のことではないか……」
 今度は声まで情けなくなってしまった。これはいかん。俺は気を引き締める。
 幸村は部屋の奥に案内してくれた。勧められるままにクッションに腰を下ろそう、として少し躊躇う。が、結局座ることにした。
「幸村」
「何か飲む? 紅茶でいいかな」
「あ、ああうん……」
 勢いづいてきたものの普通に歓待されてしまっている。ワンルームの部屋には当然のようにベッドがある。幸村のベッドだ。だめだ、考えたら飲まれる。
「で、キミは俺に文句を言いにきたの?」
 紅茶を一口飲んで、幸村は聞いたこともない冷たい声音で言った。俺は気圧されそうになりながらも正座した膝を掴んで気合いを入れ直す。
「その通りだ。捻くれ者に喝を入れにきたのだ」
「捻くれ者? まさか俺のこと。初めて言われたけれど」
 それは他の者の見る目がないだけだ。
 幸村は純粋で、美しく、素直で、清廉で、美しいが。
「捻くれ者だ。おまえが捻くれ者でなくて何だ。おまえも俺のことが好きなくせに何故俺から逃げる。おばあさまのことは本当に残念だったと思う。おばあさまもおまえの花嫁姿が見たかったであろう。まだ想像でしかないがこの世の誰より美しいだろうからな。俺が世界一幸せにすると決めているのでなおさらだ。俺も見たい。そうだ。俺はおまえと結婚すると決めているのだ。おまえと出会った頃からだ。俺は兄が羨ましかった。兄は俺の気持ちを悟ってあのような愚かな選択をしたのではないかと考えたのは一度や二度ではない。だとしたらおまえには本当に悪いことをしたと思う。しかし、おかげで互いに道を外さずに済んだのだからそこは許せ。うむ、互いにだぞ。何故ならおまえもきっと俺のことを好きになったはずだ。今のように。そうだ幸村。おまえは俺のことが好きなはずだろう。何故逃げるのだ。母が言うように子供との戯れであったというのか。もしかすると十年前はそうだったかもしれぬが今もそうだとは言わせんぞ。父のいうように多少歳が離れているからか。それこそ十年前なら知らず、今はもう大した問題ではないはずだ。答えろ、幸村。なにを拗ねているのだ。このような試すような真似をして。本当に追われたくなければ実家に絶対俺にはこの住所を教えるなと言えばよかったのだ。婚約解消したことも伝えてないだろう。妹御は婚約者だというとケーキまで出して歓迎してくれたぞ。そうだ、妹だ。年齢差を気にしていて、その上で曾祖母の願いを叶えたいだけだというのなら俺を妹に押し付けてもよかったはずだ。しかしおまえはそうしなかった。あとおまえは俺にく、口付けよりももっと先まで許したな。本当はおまえがしたかったのだろう。もししていたら互いにその思い出で生きるとでも言うのか。そこまで健気に俺を思ってくれたことは嬉しく思う。思うが俺はうつくしい思い出よりもおまえと生きたい。俺が今座っているクッションも持って二人で暮らすのだ。お前がいて、その上うさいぬのクッションもある。それ以上の幸せがあるだろうか。精市。俺はおまえが好きだ。好きでたまらん。愛している。俺を捨てるな。俺と共に生きてくれ」
 ほとんど一息で言った。
 幸村は面食らっていた。口を開けたり閉じたりして言葉を探しているようだった。
「……………………おまえ、俺の名前を、知っていたのか」
 ようやく、そう絞り出した。俺は当然だ、と頷く。幸村が名ではなく名字だと知ったのは幸村に一番距離を取っていた中学の頃、偶然知っただけだった。兄が結婚間近のおのれの許嫁を名字で呼んでいたなど、誰が思うだろうか。幸村を譲ってくれた兄に感謝することもあるがこれは兄が悪い。
「ところで、他に反論はないのか?」
 きっと俺は今、意地の悪い顔をしているだろう。少しは不安だったがこうして追うにつれ幸村の気持ちを確信してしまったのだから仕方がない。
 ガキの戯れに付き合っていたというならもっと早く断ってもよかった。
 ただおばあさまのためなら妹に代わってもよかった。
 俺と縁を切るなら徹底的にすればよかった。
 一人暮らしの家に趣味ではないうさいぬのクッションなど置かなくてもよかった。
 俺が贈った百余の花全てを押し花にしなくてもよかった。
 すべてが幸村の気持ちが俺に向いていると言ってくれていた。
「ああそうだよ。試してたんだよ!めんどくさい男っておもっただろ!そう思えよ!そんなめんどくさいの願い下げだって思ってくれていいんだよ!優しさで人生潰すなよ!十歳差だぞ!十歳差の子供を好きになる変態なんだよ俺はっ!あの女の子と並んでたの、お似合いだったよ!何もせずに身をひこうと思ってたのに何だよ、もっと好きになるだろ!なのに抱いてくれないし酷い男だよお前は!こっちだってお前の優しさとカンチガイに付け入る酷い男だからお互い様だけどな!もうやめにしてやろうと思ってたのに!でもそれでも追ってきてくれるなら絶対もう逃さないって思ってたのに!こうして蜘蛛の巣に飛び込んでくるんだから馬鹿だよ!ばーかばーか!……ああもう、好きだ。弦一郎。好きだよ。お願い、離さないで」
 俺は黙って聞いていた。十も年上なのに子供のように喚くのが可愛くて一言も聞き逃したくなかったのだ。うむ、俺たちのようなのをばかっぷるというのだろう。悪くない。
「心得た。決して逃さんぞ」
 抱き寄せた肩は少々骨張っていて、俺はたくさん稼いでたくさん食わそうと誓った。

 

 

 幸村は一人暮らししていた家を引き払った。
「あーもうばか。ばかばか、ゲンイチローくんのばか。あんな声出しちゃったらもう住めないだろ。壁薄いって言ったのに……」
 だそうだ。婚前交渉はだめだと言ったがもう絶対結婚するのだから問題ないのだ。あの日の幸村はたいそう可愛かった。記念に録画したかったが「ばか!変態!」とすこぶる可愛く拒否されたので結婚して本当の初夜を迎えた時に再検討を願いたいと思う。
 幸村はまた真田家の離れに住んでいる。
「弦一郎が本当にごめんなさいね……」
「いえ俺の方こそ未来ある弦一郎くんにすみません……」
「あれはもう君にしか御せないと思うから本当に君が嫌になるまでよろしく頼みます……」
 と、父母と謝りあっていた。愛する二人を引き離しては曽祖父たちの二の舞なのでどうにか納得してくれたようで何よりだ。
 幸村はあの頃のように離れの庭に咲く花々を愛でている。あの頃と違うのは幸村が常に笑顔であることだ。俺が笑顔にしているのだ。俺は毎日得意な気持ちになっている。
「精市。おまえとの結婚が、俺は本当に待ち遠しい」
 俺の言葉に幸村は穏やかに、幸せそうに笑った。
「俺もだよ」

 庭の隅にはタンポポが揺れていた。